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No.03「最近の係争事例から(2)」
JFE-TEC News No.03号 高松塚古墳壁画が語る歴史のロマン 他 記事一覧
最近の係争事例から(2)
No.03 高松塚古墳壁画が語る歴史のロマン 他
最近の係争事例から(2)~みんなが使うソフトの特許侵害~
東京地裁で今年2月に、有名なワープロソフトが特許権の侵害を理由に差止請求等の認容判決がありました。裁判での争点は、「ヘルプモード」の絵文字が特許でいうアイコンに該当するか否かですが、私が関心を持ったのは、新聞やテレビで報道された「控訴します。また、このソフトの使用者には迷惑をかけることはありません。」という被告のコメントです。
以下、この被告コメントがどのような理由で出されたのか、法的な観点から推測してみようと思います。
民事訴訟では一般に、判決が確定した場合、その結果に拘束されるのは裁判の当事者のみであり、判決文の主文(結論)にその拘束内容が記載されています。そこで、このことを本件事例に当て嵌めてみます。本件での主文は、被告に対してのみ製造販売を差し止める内容でしたので、ワープロソフトのユーザーに対しては、次のように整理できます。①ソフトのユーザーには判決の効力は及びません。②ソフトの使用を禁止してはいません。③被告が控訴したので、この判決はまだ確定していません。さらに、本訴訟の前提として特許法があるので、次が付け加わります。④特許権の効力は「業として」の場合に限られます。これらの4点のいずれからも、本ワープロソフトが特許侵害品であってもこれを個人的に家庭内で使用するのであれば侵害の問題は生じません。以上が、冒頭で述べた被告コメントの出された根拠であると考えられます。
しかし、本当に、このワープロソフトのユーザーには迷惑がかからないとしても良いのでしょうか。判決文中には被告ソフトが特許権を侵害していることは明記されています。であれば、このワープロソフトを会社内で仕事として使用している場合はどうでしょうか。会社の業務上の使用行為は「業として」の要件に該当するので、侵害となるはずです。原告が別途企業ユーザーに対して本件と同じ訴訟を提起すれば、実質的に同じ理由によってソフトの使用禁止の判決を得ることが出来るでしょう。そうすると、冒頭のコメントは法律論的には、判決が確定していないことだけを理由とした一時的なもののように思えます。
以上を踏まえると、冒頭のコメントは、いささか冗長になりますが、「現時点では判決が確定していませんので、控訴して敗訴するまでは判決には強制力がありません。控訴審で敗訴して判決が確定した場合、当社のソフト販売は特許権侵害となりますが、既に購入した者が、家庭内でそのソフトを使用しても侵害の問題は生じませんが、会社内で使用する行為は侵害となります。」とすると、少し法的に正確な表現となったのではないかと思います。もっとも、被告は、いざとなったら原告からライセンスを受け金銭的解決を図る覚悟で冒頭のコメントを出したとすれば納得できます。
その後、「被告は、新バージョンには問題の機能を搭載したまま販売した。」とか、「ヘルプ機能の絵を取り除いた変更ソフトを提供する予定である。」との報道に接しました。今後どのように紛争が解決されるのか注目されるところです。
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